大好きな先輩~その2

6年前に別れた、サークルの先輩だった彼。声が出なくなるほど好きだった彼。でも、別れたときには自分の人生を取り戻したようでホッとしてしまった彼。

他の誰と付き合っても、いつも考えるのは彼のことばかり。彼の運転していた車と同じ車種の車を見つけると、もしかしたら彼の車じゃないかと思って走って追いかけるという、一緒にいる友人も限りなく引く状態のアブナイ性格になってしまった私。そのうち、私をいじるネタになるほど、6年の間に日常化してしまっていました。新しい彼を紹介すると「彼も心の穴埋め?大丈夫?」と、眉をひそめて耳打ちされるような日々でした。

でも、その6年の想いは、あることがきっかけになり、悪い夢から覚めるようにすっと消えていったのです。

それは、私が海外留学を決めてしばらく経ってからのことでした。なんだか今の環境に飽き飽きしてしまって暮らしを変えたいと、かねてから興味のあった海外留学のための費用がやっと溜まり、渡航先とスケジュールを決めた日の夕方でした。偶然にも、私の家の前で彼に会ってしまったんです。私の家は駅前にあり、電車を使用して通勤する人が行き交う商店街の店の一つなのです。驚きましたが、同じ街に住んでいる限り、あり得ない偶然ではありません。

懐かしそうに笑ってくれる彼。「どうしてあの時、別れたくないって言ってくれなかったの?あれから、この家の前を通るたび何度も、何してるかなって思ってたよ」とのこと。あいかわらずの勝手な言い方でしたが、そんな言葉をかけられて、思わず「嬉しい!」と思ってしまっている私の気づき、自分でも自分に対してがっかり。すっかり昔と同じく、流されてしまっている私です。

でも、ふと気づくと、彼の左手には指輪が…。「結婚したんだ。結婚式の前日、電話したけど通じなかった…」

心が揺れてしまうので、彼の電話番号は消し、どちらからも連絡が取れないように携帯も新しい番号にしたのです。

「家の番号にも電話して、お母さんに僕の携帯番号を伝えたよ。聞かなかった?」

そういえば、母が男性から連絡があったと言っていました。先輩の名字は、その時私が付き合っていた彼とたったの一文字違い。そして、きちんと聞き取れなかった母。おまけに、母が聞いたという携帯の番号も、数字が一つ、どこかで足りなかったのです。「もしかしたら、先輩?」と思って色々試してかけてみたことを覚えていました。最初の090は合っている。抜けているとしたら一番最後?入る数字は全部で0から9までの10通りだから…と十数回、電話をかけてみても空振り。じゃあ、抜けてるのは最後の番号じゃなくて…。そう考えて、ひと通り考えられる番号を出していこうとしてふと、手が止まりました。

今ある、母から聞いた数字が必ずしも合っているとは限らない。ひとつ抜けただけでなく、間違っていたとしたら、本当にきりがない。それに、もし正しい電話番号を突き止めて、先輩だったとしても、そこからどうするの?と自分に問いかけ、電話番号探しはやめたのです。

結婚式の前日に電話をかけて彼はどうするつもりだったのでしょうか?マリッジブルー?

「あの時、電話がつながっていたら、運命が変わってたかもね…」

はぁぁぁぁぁ。彼のこういうところがずるいんです。その時はそのまま別れましたが、次の日の夕方、誰かがドアをノックする音がします。開けてみると彼が玄関の前に立っていました。

「これ、ずっと借りてたから」…そうなんだけど、わざわざ持ってこなくても。忘れてたし…「ちょっとドライブ行く?」…なんで私、うんっていうかな…。

車を走らせながら、彼は、「昔ここはよく来たね、最近はこないんだよ…」と昔話。何を思ったらいいのか分からなくなったその瞬間。彼がポロッと、「奥さん、俺が他の女の子と会ってるって知ったら、泣いちゃうな…」と言いました。

その時、私の頭の中のモヤモヤや、期待、不安、どうしようもないぼんやりした気持ちに掛かっていたモヤが、サーッと晴れていったんです。

私のことを、そのくらい特別に思っていてくれるという嬉しさと同時に、大切にすると誓った子に対して、泣かすようなことをしてしまう人。もし、彼の奥さんと私が反対の立場だったら、私が結婚した相手だったら、彼は私に同じことをするの?

その後、数日の間、彼と会ってドライブすることはありましたが、もう海外留学することは決めていましたし、彼は結婚しているし。このまま会っていても、私達の想いはどこにも行かないのだと思った時、私は「明日も電話してくれるの?でも、行き先が見えないね…」と言いました。彼は、困惑したような、でも、何かを知ったような顔をして私を見てから、ニコッと笑いました。次の日、彼から電話はありませんでした。

私も、もしかしたら彼も、結局、どんなに好きでも一緒になれない人はいる、ということを学んだのだと思います。

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