大好きな先輩~その1

大学1年生、入学したてのキャンパスをはじめて闊歩できる新入生オリエンテーションって、ちょっとウキウキしますよね。いくつものサークルに勧誘されたり、男女問わず素敵な上級生との話を楽しみながら見回すと、ちょっと離れたところに、人混みの中でも本当にパッと目を引くようなきれいな顔をしたかっこいい人が!

モデルかジャニーズか、というほどのかっこよさに、さりげなくどこのサークルなのかをチェック。なんと、たまたま、入りたいと思っていたサークルのブースに座っているではありませんか!

そのサークルに参加してあっという間に4か月が過ぎ、お目当ての先輩だけでなく、女の子の先輩とも仲良くなり、夏合宿の夜は当然のように『恋バナ』。

女性の先輩の、「このサークルの中だったら、どの男子が一番いい?」という、お決まりの質問に「見た目だけだったら、○○先輩」と答えた私に、「あーそうだよね。彼はジャニーズに入れる顔だよね。あんなにきれいな顔の人はあんまりいないかもね。優しいしね…でも、付き合ったら多分、結構大変な一面もあるよ」と…。そして私からの返答を待たないまま、「じゃあ、性格だったら誰?」と話題はうつっていきました。

そのサークルには、母性本能をくすぐるタイプ、人望のあるタイプなど、魅力的な男性の先輩がいたので、それぞれの良さなどを偉そうに語り合いました。そんな恋バナは中学校からずっと、キャンプや旅行、合宿にいくと当然のように話題の一つとなりますよね。私も参加していた仲間も、彼の「大変な一面」は何なのか突っ込むこともなく、その夜は就寝しました。

私には当時、高校の時から付き合っている彼がいましたが進学した大学が異なり、近いようで遠いその距離感に、何となく自然消滅しかけていました。ふとしたことからそんな話題となったのを聞いてある先輩が、「じゃあ、日曜日は暇でしょ。サークルの何人かと遊ぶから、一緒においで」とドライブに誘ってくれました。車を出すのは憧れの先輩。「行きます!」と即答しました。

夕方まで遊んで夜は先輩の家で鍋パーティ。そのまま、男子も女子も皆、雑魚寝をしました。

私が朝、目を覚ますと、憧れていた先輩の顔がとっても近いところに…。「あ、起こしちゃった。可愛いからチューしちゃった。付き合わない?俺ら?」…え?「いいですけど…」。こんな感じで付き合いだした私たち。でもそこから、女の先輩が合宿の夜にボソッと言った「結構大変な一面もあるよ」の意味が解ってくるのです。

まず、とても男らしい性格の彼。その女の先輩によれば、サークルのミーティングに血だらけでやってきたことがあり、訳を聞けば「道の向こうからガン付けてくるやつがいたから、殴り合いの喧嘩になった」とのこと。あり得ない、と思い、この人の彼女になったら大変だなと思ったそうです。

こんな性格の彼は、彼女に対しても主導権を握り、『女は3歩下がってついてくる』のが当然。その理由は、男の自分が女の子を守ってあげられるから…だそうで、彼の言うことは絶対でした。あまり無理なことは言うことはないのですが、例えば、門限は夜7時。自分のいない時に何かあったら心配だからという理由です。

ある日、買い物に出かけた私は、買い物が長引いたことと家に帰るバスに乗り遅れてしまったことで帰宅が8時に。たまたま携帯を充電したまま忘れていたので、着信あったかなとみてみると、なんと50件!全部、彼からでした。留守電にもメッセージが入っており、6時半ごろは「携帯忘れて外出しちゃったのかな?早く帰って来いよー」とかわいらしいものだったのですが、7時30分ごろには「どこに行ってるんだよ!心配させんじゃねーよ!」とすごい剣幕。

慌てて電話すると、「今度、こんなに心配させたら絶対別れるからな!」と。私は、泣きながらごめんなさいと謝ったのです。

このような時以外は、本当に優しい彼でした。しかし、今考えると、家庭内暴力の被害者は、こうやって洗脳されるのだろう…と思います。彼は、一切、実際の暴力は振るわなかったのですが、言葉の暴力を浴びせた後に優しくしてくれるという繰り返しは、まさに、ドメスティックバイオレンスの被害者がマインドコントロールされる過程とおなじです。

そのうち、何か不用意なことを言って怒らせてしまうのが怖くて、私は言葉少なになりました。厳密にいうと、声がうまく出せなくなりました。しばらく付き合っていたのですがなんだかぎくしゃくした雰囲気は解消されず、そのうちに、彼から別れようと言われました。それまでも、怒らせるたびに別れると言われていたのですが、今度こそは本当だと感じたことと、ほとほと疲れ果てていたこともあり、完全に別れました。

が、別れてからも、声は戻ってきませんでした。話すことはできますが、うまく出せない。絞り出すように話さないといけない状態がずっと続いたので、さすがにこれではだめだと思いボイストレーニングに通い出しました。

プロの歌手になりたいという夢持った人たちが通う教室で、先生もとてもポジティブ。誘われるままセッションをする授業にも参加しました。声が完全に出るようになるまで3か月。そのころには、カラオケに行くと「めちゃ歌うまいですね!」と隣の部屋の人からも言われるほど、歌が上達しました。でも、こんな彼ですが、なぜか心残りが…。きっと本当に好きだったんですね。

…ところが、この6年後、驚くことが起きるんです。

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