pairsに登録した理由は、と聞かれればそれは「出来心」以外の何物でもないと断言できる。
当時私は大学生だった。特に彼氏が欲しいとか恋愛をしたいとかそういう心情ではなかったのだが、周囲でマッチングアプリが流行り始め、何を考えたのか自分も登録してしまった。
しまった、と言っても後悔しているわけではない。なぜなら私が今、この記事を書いている隣でカタカタとプログラミングをしている男性にはpairsのおかげで出会えたのだ。
彼と交際してもう3年と少しになる。同居して2年と少しだ。まさかマッチングアプリで知り合った男性と寝食を共にし、住んでいるマンションを更新することになるとは、誰が考えられただろうか。
彼と出会った経緯を書いていきたいと思う。
多くの人と同じように、恋愛をするなら同じ年代の人がいいな、と当時の私は考えていた。3歳くらい年上だと尚よし、ということで年齢層を絞って男性のプロフィールを見ていた。
どんな人が自分のタイプなのだろう。そうだなあ、頭がいい人がいいな。そんな単純な考えで、ターゲットをさらに「大学院生」に絞った。
大学院に進学している人間のpairs内人口というのは正直言って多くはなかった。それがかえって良かったのかもしれない。何人かの男性のプロフィール写真をスクロールしていきながら、私は彼を見つけた。
今でもよく覚えている。彼は、細身で色白、眼鏡をかけて、シャツを、それも淡いピンクのワイシャツを着ていた。
私はその時、ピンクのシャツが世界一似合う男性を見つけてしまったのだ。
ピンクのシャツ。
エモい。
私の指は画面を連打したい気持ちを抑えつつ、「いいね!」を一度だけ押した。
そこからの数時間は地獄だった。私はその時初めて神を信じた。頼む、「いいね!」が返ってきてくれ。その時は正直何も手につかず、何故か部屋の模様替えを始めてしまったのをよく覚えている。
2時間くらい経っただろうか。私のiPhone6S(当時)の画面が光った。pairsからの通知だった。
神様ありがとう。
そうして私はピンクのシャツの大学院生とマッチングした。
pairsではマッチングをするとメッセージのやりとりができるようになる(大抵のマッチングサービスはそうだと思うが)。最初にどんなメッセージを送るかは大きな関門だ。第一印象が決まると言ってもいい。しかし正直今となっては、その初手を思い出すことができない。ということで、隣にいる元・ピンクのシャツの大学院生(現在は黒のスウェットのプログラマーだ)に、「私ってpairsで一番最初になんてメッセージを送ったんだっけ」と尋ねてみた。
「名前と大学名と出身地が送られてきた記憶がある」
とのことだ。彼曰く、丁寧な人だと感じたらしい。
それから2週間ほどだろうか、メッセージをやり取りして、対面する算段となった。待ち合わせは山手線の某駅だった。まだ秋口だというのに随分と寒い日だったのを覚えている。
「あの、○○さん(私)ですか」
と現れた彼の姿を今でも覚えている。
彼は、およそデートには、それも初対面の相手とのデートには相応しくないであろう、白のウィンドブレーカーを着ていたのだ。
白のウィンドブレーカー。
エモい。
しかし何故か彼は、ウィンドブレーカーの下にテーラードジャケットを着ていた。彼はあれから3年が経った今でもファッションセンスというものを持ち合わせていない。
話を3年前に戻す。彼と私は、駅の最寄りのイタリアンでランチをした。そこで私はあることに気がついたのだ。彼は、自分の話をほとんどしない。
ははぁ、さてはこういう不特定多数の人間がいる場所で自分のことを話すことができないタイプなんだな。
ということで、ランチをいただいた後、私は彼を完全防音個室のネットカフェに連れ込んだ。
本来であれば、面識のない男性と密室で二人きりになるのは危険な行為である。しかし、私には彼が「危険な行為」に及ぶような人物であるとは思えなかった。
ネットカフェで話してみると、彼は知的な話し方をする面白い男性だった。何の話をしたか正直よくは覚えていないのだが、自分が大学で何をやっているのか、というようなことを話した気がする。
初日はそんなこんなでお開きとなった。しかし「次はいつ会いましょうかねえ」というような雰囲気になっていたので、私は明後日はどうかと提案した。特に用事もないということで初デートから2日後に2回目のデートをすることになった。
2回目のデートの場所は私がリクエストした。山手線の沿線にある某天然温泉施設だ。私は温泉や銭湯がとても好きで、その温泉には行ったことがなかったので行ってみたかった。ただそれだけの単純な理由なのだが、よくよく考えれば、私は出会って数日の相手にスッピンを晒したことになる。若さとは恐ろしいものだ。そこまでの度胸は今の私にはない。
ちなみに彼はというと、「混浴か?」と考えていたそうだ。抜けている。
そうして我々はいい湯に浸かり、またネットカフェへと向かった。
ネットカフェでは私のリクエストで『シン・ゴジラ』を観たのだが、私はゴジラが蒲田に上陸するあたりで爆睡してしまった。控えめに言っても最低である。そんな私に上着をかけてくれた彼は、今も変わらず心優しい人だ。
「これからも、色んなところに一緒に行ってくれますか」
彼は言った。
それが告白の言葉だった。
こんなわけで私はピンクのシャツの大学院生(現・黒いスウェットのプログラマー)と今も一緒に住んでいる。
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